絵カードから文字への移行
はじめに
この記事では、文字の習得だけでなく、知的障害を伴う自閉スペクトラム症で無発語だった息子が話せるようになっていく経過も書かれていますが、全ての人が同じやり方をすれば文字を習得できるわけではないと思っていますし、発語を約束するものではありません。
ただ、文字を机上で教えても習得できなくて諦めかけている方には参考になるかもしれませんし、もし発語がなくても、確実性の高いコミュニケーションとは何か、気づきになるかもしれません。そんな気持ちで書いています。
絵カードから文字へ移行するためのヒント
筆談コミュニケーショングッズを販売する㈱おめめどうのセミナーで聞いた「文字は覚えさせるのではなく、何に使うか」というsyunさんの言葉が、絵カードから文字へ移行するときの大きなヒントに。
文字に興味があって自然に覚えていく・・・という感じではなかった息子。
医師に、この子は一生しゃべらないかもと言われていたので、
せめて文字が読めたなら、大好きな絵本をもっと楽しめるのにな
文字を読めるようにしてあげたいな
でも、どうやって?
そんなふうに思っていた小学校入学前くらいに出会った言葉です。
書かされているだけでは、日常で使えない
それまでも、文字を覚えさせようと、療育先では二人羽織のようになって書かせてみたり、家でも文字カードのマッチングをしましたが、息子の場合、できるのはその時だけ。
普段の暮らしにはなかなか反映されませんでした。
「文字の読み書きができたら、こんなに便利なんだ」と息子が気付くために、
得する場面、好きなことをする場面で「文字があるように」する。
そこをスタート地点とし、試行錯誤していきました。
【幼児期】物には名前があると知った絵カードコミュニケーション
無発語だった息子は、絵カードを1枚選んで持ってきたら、物と交換するなどして願いが叶う経験を積んでいました。
文カード(黄色のバー)に名詞と動詞の絵カードを貼って持って来るようになったころ、カードを指さしながら「たーたい(ちょうだい)」の言葉が出始め、物には名前があるということを理解しました。
しかし、今、伝えたいときに、その絵カードがすぐに無く、言葉は不鮮明で聞き取れないということが度々起こるようになり、絵を描いたら伝わると知った息子は、次第に、絵カードより自分で描いた絵を持って来ることの方が増えて行きました。
そこで、絵を持ってきた時に、文字を添えるようにしました。
「だ・ん・ご、だよ~」と言いながら、一文字ずつ指さすといった感じです。
息子は私の指を目で追うだけでしたが、おめめどうのハルさんが言っていた「知的障害があっても文字を読めるようになる人は多いよ」という言葉を心の支えにしながら、「きっと読めるようになる。私だけでも信じよう」と思ってやっていたことを、今でも覚えています。
【保育園の年長さんの頃】初めて自発で文字を書いた日
泊りで海水浴に来ていた朝のできごと
1日のスケジュールをミテカ(@おめめどうグッズ)で伝えてあるけど、早く海に入りたい!の気もちでいっぱいだった息子は、自分でミテカのひらがなを見ながら「うみ」と書きました。
初めて自分から文字を書いた瞬間です。
絵カードの下のひらがなが、こんな時に威力を発揮するのですね。
私がひらがなを一文字ずつ指さし、「う」「み」と読み上げる。
すると、息子が、窓から見える海と自分の書いた紙をマッチングさせて「み!」と言いました。
この日の驚きと感動は、今でも鮮明に覚えています。
【1年生】地域の小学校へ入学
絵本を自分で読める!
国語の授業で1文字ずつ「ひらがな」の学習がはじまり、宿題でも繰り返し書きます。
例えば「あ」の書き取りの宿題が出た日は、今日は「あ」の学習をしたのだとわかります。
息子は絵本が大好きなので、毎晩、寝る前に一緒に絵本を読みながら、絵本の「あ」を指さしすると、「あ!」と嬉しそうに声を出してくれました(発音は不鮮明)。
読めることがとても嬉しい様子で、絵本の中から「あ」を探して指さし。
・デザインあ解散!
・あっちゃんあがつくたべものあいうえお 他
文字って便利だな
宿題をする時や表出のコミュニケーションに活躍したのが、こどもちゃれんじ じゃんぷの付録「かきじゅん しらべるマスター」です。
ボタンを押すと音声とモニターに書き順が出ます。
味付け海苔が大好きだったので、「のり」とひらがなで書いて見せると、「かきじゅん しらべるマスター」でボタンを押しながら音と形を確認し、筆談器COBOに「のり」「ノリ」と書いていました。
その後、食事のときに味付けのりが欲しくなると、「まま のり」と押す、などして知らせてくれました。
注意)下の動画を再生すると音声が流れます
【2年生】濁点・小さい「ゃ・ゅ・ょ」などの入る文字は、読み・書き・発音どれもハードルが高かった
例えば
お茶のことを「こや」と発音しており、ただ発音が不鮮明なだけではなく、書いてもらっても「こや」でした。
私がCOBOに「おちゃ」と書くと、チャレンジ1ねんせい付録「チャレンジスタートナビ」を持って来て「おちゃ」と入力し、繰り返し聞いていました。
チェレンジスタートナビは、モードの1つで、ひらがな・カタカナを入力するとその通り単語で発音が流れます。(「かきじゅん しらべるマスター」は1音ずつ)
濁点や伸ばす音なども入力できるので、コミュニケーションツールとしても使えます。
何と言っても頑丈!
踏んでも落してもびくともしません。
発音できない言葉は、文字で書くこともできませんでしたが、
「チャレンジスタートナビ」で目と耳の情報が一致すると、単語としての発音もある程度できるようになっていきました。
「こや」→「おちゃ」と発音できるように。
注意)下の動画を再生すると音声が流れます
【3年生】簡単な漢字を読めるようになると、宿題の音読に変化が
今まで1文字ずつ音読していたのが、単語をまとまりで読むようになり、徐々にストーリーとして内容も理解して読むように。
スケジュールも、文字で読める部分が増えて行き、見通しを伝えるのが随分楽になりました。
息子が書くスケジュールにも略絵ばかりではなく、文字が混ざるようになっていきました。
【4年生】お小遣い(予算軸)をスタート
コロコロコミック、ゲームの攻略本、ざんねんないきもの辞典、ポケモン科学読本などのマンガや読み物を買うようになり、読書が大好きになっていきました。 DVDやテレビも字幕を出して観るようになり、耳からの情報を目で補っているようです。
【5年生】 おはなしメモに文を書くように
発音が悪くてなかなか伝わらないような「文章」も、書いて相手に渡すようになっていきました。
【6年生】自分で書くスケジュールは文字になり、漢字も書くように
夏休みの絵日記や自由研究など、イメージを文章にするときは、補助が必要ですが、iPadのマインドマップアプリやパソコンのワードを使って書いています。
ポイント2つ
コミュニケーションは確実性
自分の伝えたいことが正しく伝わる、すぐ伝わる。
息子にとってその手段が「文字」でした。
息子がそう気づけたのは、幼児期から見えるもの(絵カードや絵を描く筆談など)を使って、コミュニケーションを取ってきたことが前提にあると思います。
幼児期は、「(絵カードや筆談をしなくても)将来、しゃべれるようになって欲しい」という気持ちが強く、「(絵カードや筆談をしてでも)今、この子が何を伝えたいかわかってあげたい」という気持ちが負けそうになりますが、子どもは「今、伝えたい」のです。
幼児期から本人の好きな事を応援する
息子は絵本を読むことが大好きで、私もそれを全力で応援してきました。
コミュニケーションでも大活躍の「文字」ですが、息子の興味関心を広げる「本」の世界を無限にしてくれたのも「文字」でした。
「人は好きな事から学ぶ」というように、好きな事があるというのは生きる力になると実感しています。
文字を何に使ったか
我が家では「確実性の高いコミュニケーション」そして「好きな本で世界を広げる」ことに使うことで、息子が文字って便利だなと気づき、文字の習得が加速していきました。
音声言語だとすれ違ったり、聞いてないよ~となることも多いのですが、文字という共通言語でやりとりができるようになったおかげで、今まで以上に、学校でも見通しやルールなどを視覚的に書いて伝えることが増えています。
そのおかげで、居心地よく暮らしていますので、それについてはまた別の記事で。
長い文章を読んでいただきありがとうございました。
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